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新参者(東野圭吾)




新参者



第一章 煎餅屋の娘


「煎餅屋あまから」を営む上川家の面々に、二人の捜査一課の刑事と『加賀』が、保険外交員の『田倉』が昨日何時頃に訪問したのかを尋ねてくる


『田倉』は、先日発生した小伝馬町の殺人事件の被害者宅を訪ねており、その後「あまから」へ寄り、午後6時40分に退社したと犯行当時のアリバイを主張するが、彼が午後6時10分に退社したという証言の存在から、『田倉』が退社後に犯行が可能な空白の30分が浮上した事で重要容疑者として疑われていた


「あまから」への聞き込みは、『田倉』の正確な退社時刻を調べる為のものだった


懇意にしている『田倉』の無実を信じる上川家の面々を余所に、『加賀』はこの暑い時期にサラリーマンが羽織るスーツに着目し、曖昧なアリバイの真相に気付く


登場人物

『上川菜穂』……「煎餅屋あまから」の娘で、美容学校に通っており、母が早くに他界し父と祖母に育てられた


『上川聡子』……「あまから」を切り盛りする先代の妻で『菜穂』の祖母、頑固な性格で口煩く、先日まで動脈瘤の手術前に胆管炎による発熱により一時は生死の境を彷徨っていた


『上川文孝』……「あまから」現店主で『菜穂』の父親、30年前に20年間和菓子屋だった店を煎餅屋に鞍替えしたという


『田倉慎一』……新都生命保険外交員、江戸っ子気質の約束を守る性格で、『菜穂』を始めとする上川家に慕われている



第二章 料亭の小僧


「料亭まつ矢」の見習いである『修平』は、『加賀』と刑事二人が三日前に人形焼を買った事を聞かれる


人形焼は「まつ矢」の主人である『泰治』に極秘に頼まれ購入しており、『泰治』との秘密を守る為、『修平』は人形焼は自分で食べたと主張する


その後、三日前に小伝馬町の殺人事件で殺された女性宅に人形焼が残っていた事を知った『修平』は、殺された女性が『泰治』の愛人と思しき女性ではと疑心と不安を抱き、「まつ矢」に一人食事に現れた『加賀』からの質問に対して頑なに口を閉ざす


だが、『加賀』の真意は別の所にあり、現場に残された人形焼には意外な特徴があった


登場人物

『修平』……「料亭まつ矢」の見習い&給仕役、去年高校を辞め、父の伝手で「まつ矢」で働き、憧れだった料理人を目指している


『頼子』…‥「まつ矢」の女将で気が強くさっぱりとした気性の女性、従業員には厳しく、客に対して『修平』が見惚れるほどの笑顔でテキパキと店を切り盛りする


『泰治』……『頼子』の夫で「まつ矢」の主人、『頼子』とは対照的に放蕩で、小伝馬町に囲っているという噂の愛人への手土産なのか、『修平』に何度か人形焼を買うように頼んでいる


『克也』……『修平』の2年先輩で、『修平』が「まつ矢」に雇われた今年の春に厨房の手伝いを任された


『アサミ』……銀座のクラブで働く女性で子供がいる



第三章 瀬戸物屋の嫁


「瀬戸物屋 柳沢商店」を営む柳沢家では、店主の『鈴江』とその息子の『尚哉』の嫁である『麻紀』との間で嫁姑問題の真っ只中にいた


そんな中、「柳沢商店」にやって来た『加賀』が、『麻紀』に小伝馬町の殺人事件の被害者である『三井峯子』について聞いてくる


『麻紀』は、一週間前に『峯子』が商品を注文した事を証言するが、『尚哉』は『加賀』が何故『麻紀』を事前に知っていたのかを疑問に思う


その後も、『加賀』は『峯子』が「刃物専門店 きさみや」でキッチンバサミを買った事を突き止め、柳沢家でもキッチンバサミについて調査する


『加賀』の不可解な捜査は、『峯子』が自前のものを持っていながらキッチンバサミを購入した事が発端だった


後に相手に頼まれて買った事が判明するが、その相手が『麻紀』だった


登場人物

『柳沢尚哉』……大手ゼネコンのサービスマンで、六本木のキャバクラで働いていた『麻紀』に入れ上げ、結婚にまで漕ぎつけたが、仲が悪くなった『麻紀』と『鈴江』の板挟みで悩んでいる


『柳沢麻紀』……『尚哉』の妻、明るく表情豊かだが、元来気の強い性格で、小学生の頃から好きなキティちゃんのタオルを雑巾に使われた事に腹を立て、『鈴江』と言い争う


『柳沢鈴江』……『尚哉』の母で「瀬戸物屋 柳沢商店」の店主、『麻紀』に負けじと気の強い性格だが、歯が弱く、固い食べ物は避けており、現在は小唄の会の人達との伊勢志摩巡りを楽しみにしている



第四章 時計屋の犬


「寺田時計店」を訪ねて来た『加賀』は、主人の『寺田玄一』に6月10日の午後6時頃に『峯子』と会った時の事を尋ねる


その時間、『愛犬ドン吉』の散歩をしていた『玄一』は、『峯子』と浜町公園で会ったと証言するが、後日『加賀』は『玄一』に本当に『峯子』と浜町公園で会ったのかを再三確認しに現れる


浜町公園に集まる愛犬家達の中で『玄一』の事は見かけたものの、『峯子』を見た者は一人もおらず、『峯子』がパソコンで誰かの小犬の頭を撫でていたと綴った文面も相まって、証言に食い違いが生じていた


しかし、この不一致の謎を知る鍵を握っていたのは『ドン吉』だった


登場人物

『寺田玄一』……時計屋「寺田時計店」の主人で、古い時計を修理させたら天下一品と言われる腕を持ち拘りも強いが、頑固で喧嘩っ早い性格で周囲と揉め事が絶えず、高校卒業後に自身が反対していた相手と駆け落ちした娘の『香苗』を許す事が出来ず、その『香苗』の話はタブー扱いとなっている


『米岡彰文』……本章の視点人物で「寺田時計店」の従業員、子供の頃から機械時計が好きだった事から今の職業を志し、寺田家とは親しい付き合いで、『玄一』の腕を尊敬している一方で、彼からのとばっちりはなるべく避けようとする


『寺田志摩子』……『玄一』の妻で、『玄一』と同じくらいの大柄な体型の為、『彰文』には心の中で『玄一』と共に巨漢夫婦と呼ばれているが、『玄一』と違い、娘の『香苗』には他意はなく、結婚も支持している



第五章 洋菓子屋の店員


絶縁状態の父『直弘』から、母の『峯子』が自宅のマンションで殺された事を知らされた劇団員の『清瀬弘毅』、突然の母の死に衝撃を受ける『弘毅』だが、心の中には母が何故自分の住む浅草橋に近い小伝馬町で暮らしていたのかという疑問が広がっており、その後、『峯子』が住み、殺されてしまったマンションに赴いた『弘毅』は、現場保全を任された『加賀』に現場を見せて貰う事になったが、そこでも『峯子』が小伝馬町に移住した理由は解らなかったものの、『加賀』の話などから『峯子』の周囲で妊娠している女性がいるらしい事が推察された


登場人物

『美雪』……「洋菓子店 クアトロ」の女性店員で、二ヶ月前から常連となった『峯子』から優しく接せられており、『健一』という恋人がいる


『青山亜美』……『弘毅』の1歳上の恋人で福島出身、デザイナー志望で、「喫茶店 黒茶屋」でバアルイトをしながら専門学校に通っており、『弘毅』とは観に行ったミュージカルで席が隣同士だった事から知り合っている



第六章 翻訳家の友


『峯子』の友人で彼女の遺体の第一発見者となった翻訳家の『吉岡多美子』


犯行は『多美子』が『峯子』と会う時間をズラして貰った後に行われた為、『多美子』は『峯子』の死を自分のせいだと罪悪感を感じていた


さらに『峯子』とは仕事の件でしこりを残していた事も心に暗い影を落としていた


そんな中、『多美子』の証言の確認に来た『加賀』は、事件当日に『峯子』に公衆電話で電話を掛けた人物を探していた


だが、『多美子』の婚約者の『コウジ』にも聞き込みの手を伸ばした『加賀』は、一つの真実を見つけ『多美子』の心を救済していく


登場人物

『吉岡多美子』…:翻訳家であり、『峯子』の大学時代からの友人で、離婚する前の『峯子』から家庭の愚痴をよく聞いており、離婚後も翻訳家として独り立ち出来るまでは仕事を世話する事を『峯子』と約束していたが、自身の婚約で反故にしてしまった経緯もあり、『峯子』が殺された後に自分が幸せになる事に対して自責の念を感じている


『コウジ タチバナ』……『多美子』の三歳下の婚約者で、元々は日本人だが、父の仕事の都合でロンドンに移住し英国籍を取得した日系英国人、職業は映像クリエイターをしており、一年前に出版関係者達との夜桜の花見の席で『多美子』と知り合い交際を開始、最近『多美子』にプロポーズをし、仕事の拠点とするロンドンに来て欲しいと申し出ている



第七章 清掃屋の社長


『峯子』の元夫で清掃会社社長の『清瀬直弘』は、愛人と噂される女性『宮本祐理』を秘書として雇っており、その『祐理』に『加賀』は、『直弘』から貰った手作りの指輪やアクセサリーについて質問していた


一方、『峯子』が小伝馬町に越して来た理由を知り、自分が母親に何もしてやれなかったと痛感して『峯子』の生活ぶりを知りたいと思い至った『弘毅』


『峯子』と親しい弁護士の『静子』や『加賀』からの話を聞く中で、諸事情から『峯子』が離婚時の財産分与以上の金を『直弘』に請求しようとしていた事や、『祐理』の存在を知り、父が『祐理』との関係を理由に母を殺したのではと疑念を持つ


『祐理』に『直弘』との関係を質す『弘毅』、『直弘』と直接対面する『加賀』、そこから『直弘』と『祐理』のもう一つの一面が明らかになる


登場人物

『宮本祐理』……清掃会社社長である『直弘』の秘書、以前は『直弘』の行きつけの銀座のクラブのホステスで、『直弘』が社長秘書として雇った事から『直弘』の愛人と噂されており、『直弘』からのプレゼントであるアクセサリーと手作りの指輪を着用している


『高町静子』……「高町法律事務所」の弁護士で、『峯子』と『直弘』の離婚協議の際の『峯子』側の弁護士、協議後も『峯子』とはメールでやり取りをしていた



第八章 民芸品屋の客


「民芸品店 ほおづき屋」の主人『藤山雅代』は、『加賀』から最近独楽を買った客がいるかを聞かれる


さらに後日、独楽を売ったアルバイト店員の『菅原美咲』を尋ねた『加賀』が店の独楽を全部購入した事から、購入日が発生から後だとはいえ、店の独楽が小伝馬町の事件と関係しているのではと不安になる


やがて『雅代』は、『加賀』が独楽に目をつけた意図を察していく


そんな中『加賀』は、『上杉』と共に『直弘』の顧問税理士『岸田』の息子夫妻の元にも聞き込みを行っていた


登場人物

『藤山雅代』……「民芸品店 ほおづき屋」の店主で、伝統工芸品に魅せられ、24年前に実家の呉服店の系列店として「ほおづき屋」を出店し、店の商品の材料は国産で自ら現地に赴いて選ぶなど拘っている


『菅原美咲』……「ほおづき屋」のアルバイト店員で、一つしか歳が違わない事もあり、「ほおづき屋」と同じ並びにある「あまから」の一人娘である『菜穂』と仲が良い


『岸田玲子』……『克哉』の妻で、『克哉』とは高校時代から5年以上交際歴を重ね、後に『克哉』と結婚する為に計画的に妊娠し結婚に漕ぎ着け、子育ては実家の若い母にも助けて貰い、友人と遊んだり夫とのクレジットカードで買い物を楽しんだりと贅沢をしている


『岸田克哉』……『要作』の息子で、建設コンサルタントの会社の経理部に勤務している


『岸田翔太』……年齢5歳、『克哉』と『玲子』の息子で『要作』の孫にあたる


『佐川徹』……約20年前から玩具屋を営んでいる男性



第九章 日本橋の刑事


最終章となるこの章では、これまでの章で点として描かれた謎や事項を線として繋げ、『上杉』の視点から事件解決までの流れを描いている


捜査一課の『上杉博史』は、当初『峯子』殺害事件の犯人探しは難航すると踏んでいたが、幾つかの謎と事件の関連性の有無や、犯人の目星となりうる手掛かりが判明していった捜査の過程に、『加賀』の力添えを知らない『上杉』は疑問を覚えていた


そんな中、『直弘』と『祐理』の関係を洗う任についた『上杉』は、自分に付いて来ようとする『加賀』と組んで捜査をする事になる


そして二人は、『加賀』の関心の示す方向性の元で真犯人へと迫って行く


しかし、犯人には自らの殺害動機以上に隠したい秘密があった



ミステリー小説衝撃度数

★★★★★★★★★ 8





ミステリー小説としての衝撃度はそれほど高くはないが、緻密なストーリー構成に人情味溢れる各エピソードが絶妙に絡み合い、これぞ「加賀恭一郎シリーズ」と言える物語に仕上がっている


改めて『東野圭吾』の凄さと頭の良さを思い知った気がする


「ガリレオシリーズ」と「加賀恭一郎シリーズ」は甲乙付けがたい人気シリーズだが、この作品を読んでしまうと著者の『加賀恭一郎』に対する非常に強い思い入れを感じてしまう


しかし、やっぱり『東野圭吾』って天才的な作家だね


毎作品すべてがハイクオリティーな仕上がり、心から尊敬致します